「修羅場だってくぐらなきゃいけないんだから」看護師からの励まし
家を出たばかりで、一番追いつめられていた時に、看護師の方からかけて頂いた言葉です。裁判所に保護命令を申請しなきゃとか、私は行政の支援策を受けられるんだろうかとか、本当に色々一人で抱え込んでいました。過去にDVで受診した病院に、診断書を出してもらえるか電話で問い合わせたとき、事情を聞いた看護師さんに励ましてもらったのです。
安宿→公共施設→安宿の日々
家を出たはいいものの、住むところがありません。毎日、安宿を転々としました。その日の最安値の宿を見つけて、できるだけ歩いてそこまで行く。壁は薄いし、2月だったのでまだ寒いし、暖房のききは当然悪い。仕事ができないから収入はない。服の替えはないから、毎日自分で洗濯して、最悪生乾きのまま着ないといけない。財布の現金はすごい勢いで減る。電車代が決して安くないことに、今更ながら気付きました。
毎日、朝起きたら、ああ今日は、あるいは明日はどこに泊まろうかと考える。チェックアウトの時間ぎりぎりまで粘って、あとは公共スペースに長時間滞在する。そういう生活をしていると、自分のように追い込まれて、公共スペースを利用するしかない人たちが分かるようになりました。それまでは図書館を使っても、そんなこと感じもしなかったのですが。路頭に迷うまでいかなくても、居場所のない人というのは、たくさんいます。コロナ禍で、そういう人たちがどうしているのか、心配です。
毎日が極限だった
毎日が極限状態だったので、もし当時病院に行ったら、私には立派に病名がついていたと思います。過去にお話ししたように、私は行政の支援対象にはなり得ませんでした。今はそのことを苦々しく思います。でも、当時はそんなことを思う前に、自分で何とか解決しないと自滅してしまいます。
DV防止法に基づいて、身の危険を避けるため、保護命令を申請しようと考えました。夫に近づかれるのは耐えられません。接近禁止命令、電話等禁止命令などを出してもらいたかったのです。でも、弁護士に依頼するお金がありません。ネットで調べて、何とか自分で申請しよう、証拠として診断書をとろうと考えました。今思うと、ただでさえ精神的に参っているのに、自分で手続きしようなんて、正常な判断じゃありません。でも必死でそう考えました。
気にかけてもらえることが嬉しかった
それで、ある商業施設の非常階段から、過去に受診した病院に電話をしたのです。電話に出た看護師さんは事情を聴いて、こう答えました。
わかりました。受診したときはDVだと聞いていなかったけれど、どういうケガをしてどう治療したかという診断書を、必要であれば出すことができます。それに、受診したときに渡した明細などの書類自体が、証拠になるはずです。でも、こういうことは弁護士さんに依頼した方が良いですよ。必要になったら、私たちは診断書を出します。
弁護士を雇う方がいいというのは、当然ですね。私は、かなり思いつめた感じで電話しました。たぶん、今にも死にそうな声だったのでしょう。そんな状態の人間に、お役所仕事の極めつけみたいな無味乾燥もいいところの裁判所に出す手続きなんて、到底無理です。そのうえで、こう言葉を掛けてくれたのです。
人生、修羅場だってくぐらなきゃいけないんだから。
と。私が夫との関係に未練を残しているのを、言葉の端々から感じ取ったのでしょう。決意を固めて、一歩前に進まなければ。そう教えて下さったのです。
その後も励ましの言葉を掛けて頂きました。思わず、目頭が熱くなりました。たった一度、受診して治療してもらっただけなのに、悩みを受け止めて、全力で返して頂けたことが、とても嬉しかったです。本当に、感謝してもしきれません。