DV被害者にとっての試練の時期に考えてほしい支援のあり方
コロナウイルスの流行で、DVが増えると同時に、被害者を救うセーフティネットが機能不全になりかねないと心配されています。ただ、それ以前に、支援の仕組み自体に問題が少なくありません。私自身、支援の網から見事にもれた過去があります。
私自身が枠組みに収まりきらない被害者だった
コロナウイルスが蔓延する中でのDV被害者支援の難しさについて、全国女性シェルターネットの北仲千里さんが発信していらっしゃいます。行政側の支援が「切れ目のない支援」になっておらず、そもそも問題があるところへもってきて、コロナ禍で機能がさらに後退するという指摘です。
この中で、「既存のDV/性暴力対策の法制度や公的な相談支援の枠組みに収まりきらない様々な被害者が存在している」としていらっしゃいます。私自身がまさにそうでした。
1月の土曜日の夜、私は自ら家を出た……と言いたいところですが、実際は夫からたたき出されました。所持金は2万円、銀行のキャッシュカードも通帳もすべて夫に取り上げられています(「俺の金だ」から)。荷物はリュック一個。リュックと言っても、よく主婦やOLが背負っている小さいもので、財布と筆記用具、本くらいしか入っていませんでした。
この日の昼、私は意を決して身内に会い、DVを相談しました。その帰りに夫から電話で「帰ってくるな」と言われたのです。
行政の相談窓口は基本平日の昼のみ
行政の相談窓口を調べて電話しましたが、どこも土曜日でしかも夜なので閉まっています。「受付時間は平日午前9時から……」というアナウンスばかり続き、絶望しました。DVは加害者が家にいるときに起こるので、夜の可能性が高く、平日よりも休日の方が多いはずです。私自身はいつもそうでした。
唯一やっているのは24時間閉まらない警察だけ。警察署で相談に乗ってもらい、被害届は出さず記録だけ残して頂いて、一通り手続きが終わったときにはもう終電もありません。ビジネスホテルに泊まるしかありませんでした。翌日は日曜なので、どこにも相談ができず、この日はもっと安い宿に泊まりました。
離婚の意思がないと支援対象にならない
月曜日になってやっと電話がつながり、分かったのは、私は支援を受けられないらしいということ。当時、まだ夫と離婚するつもりがありませんでした。夫にDVの加害者更生プログラム*1を受けてほしい、DVをしないように直してほしいと思っていました(今は本人にその気がないので諦めています)。
役所からは「私たちの支援は基本的に離婚を前提にしたものしかありません」と言われました。一時的に避難するシェルターも、離婚が前提でなければ利用できません。加えてシェルターは、加害者から場所を特定されないよう、携帯電話やパソコンの持ち込みが制限されます。つまり、仕事をしながら入ることはできないですよね。
一定の貯蓄があると支援対象にならない
また、貯金が数百万円あるために、資金面の援助も受けられません。カードも通帳も夫が持っているにもかかわらず、名義は私だから……。この時は本当に途方にくれました。
追い打ちをかけたのは、自治体の女性相談窓口に電話して言われた一言でした。
「あなたはそこまで身の危険が迫っていないから、支援は受けられないと思いますよ」
耳を疑いました。身内に相談に行く直前、私は夫に引き倒され、つかみかかられて、眼をケガしていたのです。このままだとどんな目に遭わされるか分からないし、自分の精神が崩壊しかねないと思いつめ、やっと人に打ち明けたのです。
2週間に1回は暴力があり、ひどいと週に1回ありました。過去に頭をドアノブにぶつけられ、裂傷を作ったこともこの相談員の方には伝えていました。この方にとっては、一体どういう人だと身の危険が迫っていて支援の対象になるのでしょう……。この時は、行政のDV被害に対するセーフティネットは、穴だらけの網だと感じました。
その後の3か月で、行政の方にも親身になって相談に乗ってくださる方がいらっしゃると分かりました。視野が狭くなっている私に気付きを与えてくれたり、慰めて下さった方もたくさんいらっしゃいます。支えて下さった皆さんには、本当に感謝しています。
色んな人を支援できる仕組みに
ただ、仕事をしていて貯蓄があると支援の網からもれてしまうという制度上の欠陥は、改めてほしいと今も思っています。仕事をしていて貯蓄があっても、ビジネスホテルやネットカフェに何日も泊れる経済力があるわけではないからです。私の場合、支援が受けられないために、2月に入って夫のいる家に戻るという、今思うと無謀なことをし、さらに傷つきました。最後は実家にすがる形で、家を出ることができたのです。
被害に遭ったら逃げるという基本は分かります。でも、仕事があったり、経済的な事情や子供のことでそうもいかない人まで手を差し伸べられるようにしてほしい。こう願います。
*追記*
change.orgで東京都知事にDVや虐待被害者への支援体制を求めるキャンペーンが行われています。賛同をクリックして頂ければ幸いです。
*1:アメリカでは普及しているもので、国内は例えばこういった活動があります。
DV加害者更生プログラムを長年手掛けてきた著者がその実践を紹介したものに岩波ブックレットの『ドメスティック・バイオレンス』があります。