セネカ『生の短さについて 他二篇』自分のために生きるという当たり前のようで難しいことについて
哲学は食わず嫌いでした。横文字の概念を聞くだけで、苦手意識を募らせ、触れないようにしてきたんです。にもかかわらず、コロナ禍が深刻化しつつあったある日、書店で見かけ、迷わず買いました。
生の短さについて 他二篇 (岩波文庫 青607-1) [ セネカ ] 価格:990円 |
生は浪費すれば短いが 活用すれば十分に長い
「生の短さについて」というタイトルと、「生は浪費すれば短いが 活用すれば十分に長い」という帯文が、私が必要とするものとあまりにマッチしていたからです。他二篇は「心の平静について」「幸福な生について」。
ページをめくりながら、もっと早く出会いたかったと思いました。いずれも、セネカが友人や身内にあてた手紙という形式です。読んでいると、セネカが自分に向かって分かりやすく人生指南をしてくれているように感じます。
人間が自分の生をいかに浪費しているか。貴重な時間を他人のために惜しげもなく差し出している。身につまされる言葉が続きます。
財産を維持することでは吝嗇家でありながら、事、時間の消費となると、貪欲が立派なこととされる唯一の事柄であるにもかかわらず、途端にこれ以上はない浪費家に豹変してしまうのである
いつになったら自分の人生を始めるのか
セネカの生きた時代は平均寿命が短かいにもかかわらず、退官したら隠遁して好きなことをすると宣言する人が多かったそうです。そこまで生きられる保証がどこにあるのか。今も昔も人は変わらないものですね。
少数の例外を除けば、他の人間は、これから生きようという、まさにその生への準備の段階で生に見捨てられてしまうと言って嘆く
私自身、今のままだと間違いなくこの嘆く1人になるでしょう。自分の生き方を立ち止まって考える良い読書体験になりました。
死人のように生きてはいないか
「心の平静について」
DV被害者として全然平静でない日々を送ってきたために、これも食い入るように読みました。
彼は言っていた、自分は死人のように生きるよりは死人でありたい、と。数ある不幸の中でも最悪の不幸は、死者となる前に生者の一人に数えられなくなることなのである
夫のDVに耐えていたころ、私は自分の人生をあきらめていました。一日のうち、自分のことを考えるよりも、夫のことばかり考えていました。今夫はどのくらいストレスを募らせているのか、いつ怒鳴りつけられ、殴られるのか。どうやって切り抜ければいいのか。
夫が10歳年上なので、夫が死んでからが自分の人生だとかなり本気で思っていました。死人のように生きてしまいました。心の平静を取り戻して、もう一度生き直そう。読みながらそう思いました。
2000年も前につづられたセネカから私たちへの手紙。時代を越えて、エールを送ってくれます。
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