DV被害者は殺されるかもしれないし、殺してしまうかもしれない
夏日が続き、半袖のTシャツを着るようになりました。すると、どうしても目に入ってくるのが茶色いしみになって腕に残るやけどのあと。昨年の夏はなかったのです。久々に目にし、不快な記憶が呼び覚まされます。目に入ったり、ほかの人に見えないよう腕を変な方向にねじったりするたび、夫からの暴力を思い出すことでしょう。
このやけどを作ったのと同じ日に、私は前頭部に裂傷を作りました。夫が酒に酔ったうえで私を突き飛ばし、ドアノブに頭を打ち付け、血がしばらく止まりませんでした。頭をケガすると、すごく血が出るんですね。そのときまで、知りませんでした。
夫から暴力をふるわれても、我慢する被害者がいます。それを知りながら放置する傍観者もいます。よく考えてほしいのです。それでいいのか。ひどい場合、死に至る可能性だってあるではないか、と。
家族間の殺人事件は報道されないだけで多い
夫が妻を殺す事件は多いのです。
家族間の殺人事件は実はとても多いのですが、他人を殺すのと違い、あまり報道されません。そのため、最も危険なのは家族だということを、多くの方が知らない状態です。
DV加害者が被害者を殺した場合、そしてその被害者がDV相談をしていなかった場合、ただの殺人事件の扱いになり、加害者の言い分がそのまま通りかねません。
昨年11月にも、DV夫による殺人が起きています。別居中の妻の実家がある高知に夫が愛知から押しかけ、ホテルで妻を絞め殺しました。
記事にはこう書かれています。
2人は5月ごろから名古屋市で同居していたが、巧容疑者の暴力や束縛が原因として彩乃さんが8月下旬に高知市内の実家に戻った。同月30日には「夫が来た場合は助けてほしい」などと署に相談していたという。
別れ話を機に殺人に至ったケースは、こちらの記事にまとめてあります。
「夫は手加減するから大丈夫」は大丈夫じゃない
被害者に言いたいのは、夫は力の加減をするから大丈夫だと思わないで、ということ。あなたがもし死んでしまったら、きっと夫は「殺すつもりはなかった」と言うはずです。多くの男性は、女性を簡単に殺せるくらいの力を持っています。あなたの抵抗は、あなたが思うほど強くないのです。
私自身は、いつか夫に殺されると思うときがあり、遺書のようなノートをつけていました。もし自分が殺されたり、意思の疎通ができなくなった場合に、原因が夫だということが分からずじまいなのは、あまりに悔しいと思ったからです。DVと死の距離は、決して遠くありません。
DV被害者が殺人を犯す場合も
逆にDV被害者である妻が夫を殺す事件も珍しくありません。
2006年に「エリート夫殺人事件」と呼ばれるセンセーショナルな事件がありました。年収数千万円という高収入の夫から暴力をふるわれ続けた妻が、ワインボトルで夫を撲殺し、切断したうえで、道端の植え込みなどに捨てたというものでした。
09年にはこんな書籍が出ています。
DV夫の殺人依頼をした妻の話です。殺人を依頼する気持ちはよくわかります。私はずっと、夫に早く死んでほしいと思っていました。中年にさしかかり、健康のために筋トレに励むようになったのを見て、「長生きするつもりだろうか」と、げんなりしました。年が10歳離れていたので、夫がいなくなってからが自分の人生だと、本気で思っていたのです。
自分で殺すということも、かなりの実感でもって、想像していました。夫からの暴力がどうしようもなくエスカレートしたら、台所の包丁で刺そうと思っていたのです。
今思うと、異常です。そんなことになるくらいなら、別れればいいのです。でも、別れられませんでした。
DVを許さない社会に
DVは許しがたいことです。でも、残念ながら、あまりそうは思われていません。
私がかつて暮らしたマンションは、寝室の畳に包丁を突き立てた痕があり、壁をとがったもので突いた痕があり、台所のドアのガラスは割れていて、浴室の壁は穴があいたので張り替え、トイレのドアはへこんでいます。築30年以上で音も響くのに、隣近所の誰からも、何の苦情も来ませんでしたし、助けの手も差し伸べられませんでした。
悲劇を防ぐには(1)被害者にならないようDVをもっと理解する(2)社会的努力でDV加害者を減らす(3)DVを傍観しない――ことが大切です。
※紹介したblogosの記事は、少し荒っぽい議論がされていて、結論が強制入院による治療と書かれています。これは、無理な相談です。結局、加害者になるような人は、もうどうしようもないのです。本人が本気で更生しようとしない限りは。