DV被害の妻から伝えたい身近なDVの現実

DV被害の妻から伝えたい身近なDVの現実

配偶者からのDVを3人に一人の女性が経験しているとご存知ですか。DVは決して他人事ではありません。3年間DVを受けた体験から、被害者が自ら抜け出すことの難しさ、周囲の目の大切さを痛感しています。

映画『罪の手ざわり』にみる日常の中の暴力

2014年公開の日中合作映画『罪の手ざわり』。オフィス北野も関わり、中国で実際に起きた四つの事件を映像化しました。罪を犯す側の視点から撮っており、人がどのように追い詰められ、行動するのかあぶり出します。オブラートに包まない、生々しすぎる暴力描写に衝撃を受けます。

 


罪の手ざわり(字幕版)

なぜ暴力に走るのか

監督はジャ・ジャンクー。もともと生々しい、装飾のない映像を撮る方です。暴力描写にここまで凄味が出たのは、日中合作だったからこそかもしれません。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞し、キネマ旬報の2013年の外国映画ベストテンで3位にランクインしています。

リンチに遭い、役所や司法から見捨てられた男が虐殺に走り、風俗サウナの受付嬢が客に追いつめられてナイフを手に取り、縫製工場でまじめに働いていた若者が自死を選ぶ。救いのない話が続きます。創作ではなく、実話に基づくからこその凄みがあります。そのためか、中国ではいまだ公開されていないそうです。

四つの話の中に1人だけ、自ら好んで罪を犯す男が出てくるのですが、この部分の印象は薄いです。私が映画を見た公開当時は、自分から暴力をふるうということが考えられなかったからではないかと思います。

まっとうに生きようとした小市民が追いつめられるリアル

4人の主人公のうち3人は、もともと曲がりなりにもまっとうに生きようとしていたのに、失敗し、周辺の人や社会から追いつめられ、暴力を選びます。

私はDVに遭い、自傷行為も経験しました。四つの事件のうち、尊厳のための殺人と自殺に以前より共感できる気がします。公開時に見たときは、映像に衝撃を受けつつ、この映画は暴力の連鎖を描いたものだと感じました。今、感じることは少し違います。日常の中に臨界点を迎える理由はいくらでも転がっている。暴力と罪は決して他人ごとではない。そんなメッセージを感じます。

暴力をふるわれる側が、ふるう側に変わってしまう瞬間――。私自身、夫から暴力を受け続けたために自分を傷つけました。殺されるかもしれないと、かなり真剣に考えていました。夫は刃物を持ち出すこともあったからです。考えたくありませんが、もし私にもそういう瞬間が来たら、私の方が夫を殺してしまったかもしれません。

一番恐ろしいのは、私たちのような夫婦が決して珍しくないということです。

人はなぜ暴力に走るのか。なぜ罪を犯すのか。この永遠の問いに、ジャ・ジャンクーが出した答えが本作です。社会全体に閉塞感が漂う今だからこそ、見て、考えてほしい。そう思います。

罪の手ざわり(字幕版)

罪の手ざわり(字幕版)

  • 発売日: 2016/03/07
  • メディア: Prime Video