DV被害に遭ってから知る井上ひさしのもう一つの顔
西舘好子『表裏井上ひさし協奏曲』を読みました。私は井上ひさしのファンです。小さい頃は「ひょっこりひょうたん島」を見るのが楽しみで、中学生になると『青葉繁れる』『モッキンポット師の後始末』『ブンとフン』『吉里吉里人』と読み進めていきました。妻との間にDVがあったらしいと、なんとなく知っていましたが、詳しく知ろうとしたことはなかったのです。夫からのDVに耐えかねる状態になって初めて、井上ひさしがどんな夫だったのか知りたいと思い、本書を手に取りました。
西舘好子『表裏井上ひさし協奏曲』ハイブリッド型総合書店honto.jp
価格:2,200円 |
前半は痛快な出世譚
DVが始まる前までは、井上ひさしの出世譚として楽しめます。夫婦二人三脚で上を目指し、成功していくさまは、読んでいて痛快でした。ですが、後半、DVが始まるようになると、雰囲気は一変します。妻を半殺しにするような激しい暴力をふるっていたと知って、ショックでした。
なぜ暴力をふるうようになったのかということも、西舘さんなりに分析しています。詳しくはお読み頂きたいのですけれど、生い立ちの複雑さや劣等感が大きかったのではないかと、つづっています。
DVの専門家によると、加害者には、あらゆる職業の人がいるそうです。大学教授や小説家のような一見知的な職業についていて、暴力とは無縁そうに見える人にも、少なくないとのこと。なぜ普段言うことと、家族に対してすることが、こうも違うのか。西舘さんが感じたことを、私自身、夫に対してずっと感じてきました。
暴力をふるった因果としての孤独
離婚した後も、書斎の直通電話の番号を教えられていて、小説の構想などの話を西舘さんにしていたそうです。よく分かる気がします。
私の夫もバツイチで、前妻に家を出ていかれた、捨てられたと言っています。夫の方で嫌いになって離婚したわけではないのです。前妻と数年ぶりにばったり出会ったとき、相手から声をかけられたのが嬉しかったように話していました。
平和と人間愛を語りながら暴力をやめられなかった哀しさ
井上ひさしは、離婚会見で自分を悲劇の主人公のように語ったそうです。夫も、私と結婚した当初は、仕事を失った試練の時期に前妻に裏切られ、出ていかれたと、さも悲劇の主人公のように語っていました。実際は、失職のストレスで暴力がエスカレートし、身の危険を感じた前妻が逃げたのだと、今になって思います。
話を井上ひさしに戻します。相手のことを必要としているのに、どうしてそういう愛し方しかできないのか。なぜ人間愛と平和を語る人が、家族を暴力で支配をするのか。
妻に暴力をふるい続けた挙句、不倫され、離婚に至った井上ひさし。強い男性像や家長らしく振舞うことへのこだわりのせいで、暴力に走ったのであれば、そういう夫であるべきという価値観を社会から植え付けられたという意味で、被害者でもあったのかもしれません。