江國香織がDVを描く『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
家訓が「思いわずらうことなく愉しく生きよ」である犬山家の3姉妹が主人公。長女の麻子は結婚後7年間、夫の暴力に苦しんできたという設定です。それぞれが恋愛や結婚に思い悩みながらも、より良い明日を求めて歩むさまが描かれます。
窒息しそうな家の空気感に共鳴
私は夫からのDVに耐えられなくなりつつあった時期に、本書を手に取りました。女性の視点でDVがどんなふうに描かれるのか、長女の麻子がどういう決断をするのか、知りたかったからです。
麻子が家で感じる息苦しさ、窒息しそうな空気感に共感しました。私自身、家にいるときに、これを感じていたんだと気付かされました。自分の苦しさを言語化できていなかったというか、はっきり認識できていなかったので、憑き物が落ちたような気がしたのを覚えています。
小説の中には、DV被害者の自傷行為も出てきます。私自身、DVを受けるようになってから、自傷行為が止まりませんでした。それまでの人生で、全くなかったのに、何度も繰り返しました。死につながりかねないという意味で、夫からの暴力よりもむしろ、自傷行為の方が危ないと思っていました。
別居してからは、もちろん、一切ありません。暴力の連鎖だったのでしょう。私の場合、はけ口が自分しかいなかったから、やってしまったのだと思います。そういう意味では、私の希望に反して子供を持てなかったのは、よかったのでしょうね。
極限まで追い詰められたときの自分の怖さ。知る必要のないものを知ってしまったと思います。
『思いわずらうことなく愉しく生きよ』は、DVを相当調べたうえで執筆されたのだと思います。
最後に麻子がする選択は
少し物足りなかったのは、麻子の夫の内面描写でしょうか。ただ、主人公ではないので、これで十分かもしれません。読んでも、この夫が何を考えてこんなひどいことをするのか、今一つピンと来ないんです。
私の勝手な想像で、江國香織は、DVをふるう男性の心情が理解できなかったんじゃないかと思うんですね。私自身、夫が何を考えているのか、必死に理解しようとして3年もDVに付き合ってしまいましたが、結局分からずじまい。というか、分かる必要がそもそもなかったと、今になって後悔しています。
DVに悩んでいる方や、知り合いに被害者がいる方には、DVを理解する入り口として手に取ってほしいと思います。もちろん、小説として楽しく読めます。
最後に麻子がする選択は何なのか。DVを扱っているからと気負わず読める一冊です。
思いわずらうことなく愉しく生きよ 光文社文庫 / 江国香織 【文庫】 価格:770円 |
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